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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
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世界最強ランナー 高橋尚子の残してくれたもの
2008年10月、高橋尚子選手が引退しました。
マラソンの長い歴史の中で、強さの象徴であるオリンピック金メダルと、速さの証明である世界最高記録の両方を達成したランナーは、彼女を含めても4名(B・アベベ、C・ロペス、J・ベノイト)しかいません。
高橋さんは日本が誇る最強ランナーでした。
失敗もありましたが、レースでもトレーニングでも、常識を覆す柔軟な発想が彼女の特徴です。
酷暑のレース(1998アジア大会)で世界最高のラップを刻んだり、3500m以上の超高地でトレーニングしたり、2週続けてのフル挑戦を表明したり・・・。
レースでは、自ら主導権を握り、爆発的なスパートで他を圧倒する展開は新鮮で、強烈な印象がありました。
彼女が飛躍したのは、小出監督との出会いに負うところが大きいでしょう。二人三脚で世界を驚かせ、しかし、やがて監督の意向を超え、ついには独立しました。
現在の日本のマラソン界のほとんどが否定的であるセルフコーチングに挑戦したこと自体、大いに評価されるべきであると思います。
結果的に独立は失敗した形に終わりましたが、本当に失敗だったのでしょうか?トップランナーの新しい選択肢として今後の道標になるはずです。
レースの選択など、時にわがままにも映ったようで、そのたび物議を醸し、反対されながらも新しい挑戦をしていく姿が、逆に人々をワクワクさせたのではないでしょうか。東京、大阪、名古屋の3大会連続出場宣言はその典型でした。
伝え聞くところによると、今回の引退は、自身で満足できる状態にまで高められなかったことが要因のようです。3大会連続出場宣言は、察するに3大会連続制覇が究極の目標だったのでしょう。
残念ながら、挑戦は夢破れましたが、それを素直に認める潔さもまた彼女の魅力なのでしょう。最後まで「時代の寵児」のまま、引退を表明する姿に、彼女の芯の強さが垣間見えました。
しかし、彼女の最大の魅力は、颯爽と軽やかに走る姿にこそあったと僕は思います。まるで、マラソンそのものを敬い、そして楽しむ心があふれだしたような姿に、多くの人が「走る楽しさ、気持ちよさ」を共感したのではないでしょうか。
苦しみながら走る姿に、応援せずにはいられないランナーはいたとしても、走る姿から人々に「楽しさ」を共有させ、「走ってみたい」と思わせるランナーは彼女のほかに思い当たりません。
ここ数年の市民マラソンブームに及ぼした彼女の貢献は計り知れず、彼女に感化されて走り始めた人も沢山いることでしょう。
彼女は今後どうしていくのでしょうか?
走る伝道師として、活躍するのか?後進を育てていくのか?それとも、僕らには想像もつかない形でマラソンと関わっていくのか?違った形で楽しませてくれることでしょう。
早くも引っ張りだこの様相ですが、ゆっくりと休んで充電して欲しいと思います。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)
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