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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
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マラソンの本質はレース前半にあるマラソンのレースにおける本質はどこにあるのでしょうか?
F.ショーター氏(ミュンヘン五輪チャンピオン)は、「30km以降はサバイバル」と表現し、日本の誇る偉大なランナーだった瀬古利彦氏は「35kmは中間点。そこからがマラソン」と述べています。
マラソンを走った経験のある人なら、同じ質問に対して多くの人が、「30km以降がマラソンである」と答えると思います。僕も基本的には同意見でした。
しかし、最近「マラソンの本質は前半にこそある」という思いを強くしています。

フルマラソンにおける30km以降のきつさ、辛さは、走力が違っても共通します。そのため、僕らランナーには互いにシンパシーを感じる体験となり、例え見知らぬ同士でもマラソンの話は弾みます。
しかし、その30km以降、レース中に何をしているのかといえば・・・。僕自身を振り返ってみると、ただひたすら「頑張っている」だけなのが実情です。
もちろん頑張るために、経験を通した知恵や、練習してきた意地が大きく作用しているのは言うまでもありません。しかし、最後の最後は「全身全霊をかけて頑張る」ことに尽きます。
翻ってマラソン前半は何をしているのか?と考えてみると、非常に多くの確認作業(身体との対話)を行なっています。
ペースは適切か?、給水、身体の調子、ウェア類の選択の成否、脚の状態・・・、数え上げたらキリがありません。
すなわち前半は、来るべき「30km以降のマラソン」と向き合うための、繊細で周到な準備が要求される助走期間といえるでしょう。
フルマラソンの場合、ほとんどのランナーは自身の全速力に比べて、相当に余裕のある楽なペースでレースの前半を走っています。(これがハーフ、10km、5kmと距離が短くなるにつれて、余裕度は小さくなり、前半から結構きついペースで走ることになります。)
実はこのような余裕がある中で、その日のレースに相応しいペースを探り、見つけ出すことは意外に難しいのです。これがペース感覚の繊細さであり、マラソン前半の醍醐味と言えます。
余裕があるため、想定していたよりも速いペースで走り出してしまうことはままあります。その時、冷静に「オーバーペースである」と判断し、ペースを落とすのは意外に難しいものです。
明らかなオーバーペースでもない限り、「もしかしたら今日はこのペースで走り続けることができ、自己新が達成できるのではないか」と都合よく考えてしまいがちです。このような経験は、皆さんにも少なからずあるのではないでしょうか。それが成功することもありますが、多くはオーバーペースであり、その事実を突きつけられるのはまさしく、「マラソン後半」の30km以降なのです。
このように「マラソン後半」の苦しみや辛さ、ぎりぎりのペースで走りきった達成感などが生み出される土壌は、「マラソン前半」にすでに出来上がっているのです。
マラソン後半に「ペースが落ちる」のは、いともたやすいことです。その反対に、マラソン前半に「ペースを落とす」のは、実は非常に難しいことなのです。そういった意味で、僕は「マラソンの本質は前半にこそある」と考えています。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)
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