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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
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スピードランナーのアプローチ 福士選手の失敗に危惧すること福士加代子選手の初マラソン(2008大阪国際女子マラソン)は、見ている者に痛みの伴う感情を湧き上がらせたことでしょう。
最後まで走らせたことに対する是非を含め、検討すべき課題はたくさんあったように思います。単に「頑張った、感動した」で終わらせず、福士選手の挑戦の意義と敗因について考えてみたいと思います。

最後の走り、表情から窺う限り、脱水もさることながら、いわゆるエネルギー切れが主因であったと思います。それを誘発したのは、トラックレースの感覚でマラソンを走ったからではないでしょうか。
どんなに力のある選手でも、マラソン前半はエネルギーの節約がテーマです。前半を経済的に走り、勝負どころで温存した力を発揮する、そこがマラソンの勝敗の分かれ目です。
福士選手はトラックレースにおいて、前半から主導権を握ることが多く、そのことが彼女の魅力でもあります。スピードのある福士選手にとって、3分20秒/kmは決して速くはなく、むしろ余裕のあるペースだったのでしょう。しかし、そのペースを「経済的に」、「力をいれず」最初から一人で走るには、少々オーバーペースだったのかもしれません。
精神的に頑張ったり、張り切ったりすると、糖代謝が活発になります。力まずリラックスすることが、脂質代謝を促進し、グリコーゲンの節約につながります。是非はともかく、マラソンにおけるペースメーカーの存在が、それを物語っています。
不運だったのは、他の選手が福士選手のペースに乗ってこなかったことです。このペースで集団が作られれば、展開は変わっていたように思います。
福士選手は、レース当日、監督から設定ペースを告げられたと聞きます。しかし、マラソンでは身体の状態を、常に把握し続けることが重要です。設定タイムに固執するのではなく、体調、周囲の流れを的確に読み、柔軟に対処できるかが重要で、このことも、失速へのリスクを高めてしまったのではないでしょうか。
報道が伝えた今回の敗因は、主にマラソンに向けたトレーニングに焦点が当てられています。特に、①準備期間の短さ、②距離走の短さ(32kmが最長)が挙げられています。
12月の駅伝以降にマラソンのトレーニングを始め、その期間が1ヶ月とのこと。そもそもレース直前の1ヶ月は調整期間で、「強化する」期間というよりは、「蓄えた力を発揮できるようにする」期間です。
おそらく12月の駅伝前からマラソンも視野に入れたベース作りをしていたと思います。その期間に、マラソンを意識して身体と対話するような練習をしてきたのかどうか?それとも、ペースを設定し、ガンガン走るようなトラック、駅伝のような練習がメインであったのか?そのあたりが、マラソンランナーになりきれなかった要因の一つかもしれません。
トラックでスピードをつけ、そのスピードをマラソンに生かすことが、世界で戦う上で必要不可欠です。高橋尚子選手も野口みずき選手も、トラックから徐々に距離を伸ばし、マラソンへ移行していきました。福士選手の腰高で柔らかいフォームがマラソンでも発揮できれば、アフリカ勢と戦うことも十分に可能でしょう。
いかにしてマラソンへアプローチするか?非常に重要な課題になりますが、そのあたりの報道や陸上関係者の発言に対して、僕は多少の危惧を覚えます。そこでは、マラソン練習として、40km走などの距離走が前提になっています。
しかし、過度な走り込みなどの従来の方法論に当てはめてしまっては、せっかくの彼女の持ち味が失われてしまう可能性もあります。海外の選手も距離走は30km程度がせいぜいです。スピードランナーにとって、距離走をセーブしたトレーニングの方向性自体は間違っていないと思います。
今冬以降、福士選手らしいアプローチで再びマラソンを目指して欲しいと願います。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)
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