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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
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いよいよ開幕オリンピック 〜限界を超える選手たち僕は様々なところで、フルマラソンは人間の能力をフルに発揮するスポーツである、と言っています。しかしながら、能力のすべてを発揮するということは実は大変難しいことです。
生身の身体は、能力をフルに発揮してしまうと、機能的に、そして物理的にも破壊されてしまう恐れがあります。そのため、限界まで力を発揮できないように大脳に内制止が存在し、通常、筋力発揮がある水準以下に抑えられているのです。
さながら、リミッターのようなもので、これを「心理的限界」と言います。普通の生活では、「心理的限界」を超えることはありえません。
それに対して、身体能力の真の限界を「生理的限界」と呼びます。一般に、心理的限界は生理的限界よりも30%程度低いと言われており、通常の体力測定で測った能力は、「心理的限界」の値です。
能力の「生理的限界」を測ることは難しく、電気刺激などの外的な力で、筋力を発揮させたりすることで測定するしかありません。
心理的限界を超えて、生理的限界に近づくことができたとき、人は思いもよらない力を発揮することができます。「火事場のバカ力」などが、その例です。
一流のスポーツ選手は、様々な手法によって心理的限界を超える工夫をしています。メンタルトレーニングなどによって、自己暗示をかけたり、大きな声を上げたり、身体をたたいたり、などがその例です。
筋力を発揮する際にピストル音を鳴らすと、何も聞かせないときよりも大きな力を発揮します。これは、ピストル音という外的な力によって大脳の内制止が抑制され、心理的限界を超えたための現象です。
また、力の発揮時に大声を出すことでも、同様な効果が得られることがわかっています。
陸上競技の投擲選手が投げる瞬間や、重量挙げの選手が挙上の瞬間に大声を出すのも、心理的限界を超えるための方法です。
おそらく心理的限界を超えたのであろう、端的な例を最近目にしました。ご存知の方も多いと思いますが、北京オリンピック選考会となった、陸上競技日本選手権における400m障害決勝の為末選手の走りです。

決勝に進んだ8名中、最下位の記録で予選を通過した為末選手が、決勝では見違えるような走りで優勝しました。
決勝のこの時まで力を温存していた、というわけではありません。今シーズンは、日本選手権以前も状態は悪く、関係者の多くが北京は無理だろう、と考えていたことと思います。そしてなにより、本人が限界を超えるなんらかの力がない限り優勝は無理なことを承知していたはずです。
数々の修羅場を潜り抜けてきた彼は、この決勝レースにおいて、自らの力で心理的限界を超えたのだと思います。そうでなければ、あのパフォーマンスは説明がつきません。トップアスリートの驚愕のパフォーマンスをみた瞬間でした。彼は、一体どのような手法(あるいは状況)によって、心理的限界を超えたのでしょうか?
開幕した北京オリンピック。様々なアスリートの限界を超えたパフォーマンスを楽しみたいものです。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)
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