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今年こそジョギングをはじめよう!ジョグノートなら記録管理もカンタン

著者紹介

鍋倉賢治

鍋倉賢治

1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。

現在、筑波大学体育系(体育センター)教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。

モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。

走るなら食べよう!~体は必ず変わります~

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下り走のメカニズム

前回のコラムで、下り坂ではオーバーストライド気味に走る傾向があることを紹介しました。この特徴が身体にどのような負荷をかけるのか、今回は動き(フォーム)の変化や筋の収縮特性から説明し、その改善・対応策について考えてみます。

着地における大腿前面の伸張性筋収縮

まず、着地時の大腿部前面の筋肉(大腿四頭筋)の収縮特性について説明します(図左)。

ジョギング

大腿前面の筋は、着地の際の一瞬において、筋が引き伸ばされる方向(両端へ伸びる青い矢印)の力を受けながら、伸ばされまいとして筋を収縮(内へ向かう赤い矢印)させます。結果的に大腿前面の筋自体に大きな短縮はなく、むしろやや引き伸ばされます。このような筋収縮を伸張性筋収縮(eccentric収縮)と呼び、見かけ以上に大きな力が発揮されています。

下り走の筋への負荷

下り走ではオーバーストライドになる傾向に加えて、高速で走る恐怖心から身体がやや後傾するため、必然的に重心より前方の位置に着地することになります。さらに坂を下る重力の影響もあり、下り走では着地の衝撃力、その際の膝の屈曲のいずれも増大させ、平地走に比べて大腿前面の筋により大きな伸張性筋収縮を引き起こします。階段を下りる際の大腿前面の筋の働きをイメージすると理解しやすいのではないでしょうか。

これが繰り返されることによって筋損傷を誘発します。連続した下り走によって大腿前面にひどい遅発性の筋肉痛が起きるのはこのためで、実際に30分程度の下り走によって筋損傷が誘発され、走の経済性は低下するといった研究も報告されています。登山の下山中に「膝が笑う」という状況がありますが、これは下りの大きな着地衝撃を筋が十分に吸収できていない(伸張性筋収縮力の低下)状態を指しています。

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下りの技術:高回転のピッチ走法

ジョギング

これを軽減する一つの方法は、ピッチを速くしてオーバーストライドにならないことです。男子マラソンの世界チャンピオンにもなった谷口浩美さんは、学生時代は下り(箱根駅伝の6区)のスペシャリストでした。そして彼のピッチはものすごく速いことも知られています。箱根の6区では、たまに1500mが専門の中距離ランナーが起用されることがあり、「大きなストライド」で走る様子が報道されます。しかし、中距離ランナーが起用されるのは、大きなストライドが下りに適しているためではなく、高速度への対応ができていることが理由の一つです。ダイナミックなストライド走法よりもピッチ走法の方が下りには向いているのです。

高速ピッチの獲得法

しかし、ピッチを速めることは簡単ではありません。特に、中高年に差し掛かった市民ランナーや、走り始めて間もない初心者には難しい課題です。高速において高回転のピッチで走るためには、筋-神経系の改善が不可欠で、日頃からウインドスプリントなどでスピードを出すトレーニングを取り入れる必要があります。その際には、ストライドを伸ばすのではなく、ピッチを速くするよう心がけてみましょう。ラダートレーニングのように小刻みなピッチ、階段を1段ずつ素早く昇降するのも良いトレーニングとなります。

安全策も戦略の一つ

一方、特にトレイルでの下り走では転倒のリスクも高く、ひとたび転倒すると高速であるほど大けがにつながります。また、筋へのダメージも大きいですので、安全を重視して走るという選択肢も当然あります。僕はトレイルの下りではかかとから着地し、とにかく安全にゆっくり走っています。

次回は坂道を走る際のレース戦略について考えてみます。

(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)

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