jognote 楽しく走ってステップアップ講座
jognote 楽しく走ってステップアップ講座
著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
バックナンバー
最新講座
知っておきたい 心拍数のドリフト現象ランニングの時間が長くなると、例え速度を一定に保っていたとしても、時間の経過に伴って心拍数は徐々に上昇してゆく現象がみられます。これは心拍数のドリフト現象と呼ばれるものです。

図の赤い波線は、僕自身のマラソンレース中の心拍数の推移を表しています。
実際のレースで正確に一定の速度を保つことは不可能です。このレースでは、5~30kmまでほぼ同じペースで走りましたが、レース後半に心拍数が徐々に増加している様子がわかります。
トレーニングやレース時に心拍計を使っている人は、この現象に気がついている人も多いかと思います。
ドリフト現象が起こる原因は、エネルギー基質の変化、心臓から拍出される1回の血液量(一回拍出量)の減少、体温上昇などによって説明ができます。
エネルギー基質は、運動が長くなるにつれ糖から脂質へ移行してゆきます。
一方、一回拍出量の減少は、複数の要因によります。一つは、体温が上昇し、発汗などによって体水分量が減少し、循環血液量が減少すること、そして二つ目に、長時間の運動によって心臓(心筋)は疲労し、ポンプ能力が低下することです。
したがって、ドリフトが大きいということは、体温上昇や循環機能の低下などを反映し、これは運動の妨げとなります。実際に、ペースを維持できなくなったり、オールアウトしたりしたときなどには、心拍数のドリフトが大きいことがわかっています。
ドリフト現象の大きさは、心拍数の増加率(時間経過に対する傾き)によって評価でき、運動強度、環境、トレーニング状況などの違いによって変化します。同じランナーであっても、相対強度が高い、すなわちペースが速いほど、ドリフトは大きくなります。
高温環境、高地、アップダウンの激しいコースなども、ドリフトが大きくなる原因となります。また、給水を摂らない場合、摂った場合よりもドリフトは大きくなります。
そして、例えそれらの要因が同じであったとしても、体調が悪かったり、トレーニングが充分でなかったりするとドリフトは大きくなってしまいます。
ドリフトの原因や、程度を把握しておけば、レースやトレーニングに生かすことができます。例えば、夏の暑いときのレースは冬のレースに比べ、相対的に同じペースで走っていても、ドリフトは大きくなります。
あるランナーの乳酸性閾値(LT:第9回コラムなど参照)が、常温環境(秋冬)では5分/km、暑熱環境(夏)では5分20秒/kmだとします。このランナーが夏のレースにおいて、冬のレースと相対的に同じLT強度(5分20秒/km)で走ったとしましょう。
前半は、同じLT強度(夏:5分20秒/km、冬:5分/km)ですので、主観的にも同様に気持ちよく走れ、心拍数も同程度になることでしょう。
そのため夏のレース時には、運動時間の経過に伴って心拍数のドリフト現象が大きくなり、同じLT強度であったはずなのに、結果的にペースを維持できなくなるかもしれません。
すなわち、夏など環境条件の悪いレースでは、LTペースでもオーバーペースとなってしまうことがあるのです。
このように身体の反応は、運動強度だけでなく、環境や体調などの影響を強く受けます。それらを理解したうえで、環境や体調を把握し、トレーニングやレースに生かしてみてください。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)