jognote 楽しく走ってステップアップ講座
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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・准教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
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セルフ・コーチングの重要性~五輪マラソン惨敗に考える北京オリンピックが閉幕しました。中長距離全般において、アフリカ諸国(出身を含む)の圧倒的走力に驚嘆しつつ、マラソンでは、ベテランの活躍も目をひきました。
一方、期待された日本勢は男女とも残念な結果に終わりました。
女子では、次への再起にかけるべく棄権する道を選択した野口選手。一方、キャリアの集大成とすべく、一筋の可能性を信じてスタートラインにたった土佐選手。
選んだ方法は違っても、いずれも辛い、しかし賢明な判断ではありました。これは、男子の大崎選手、佐藤選手にも当てはまるでしょう。
一方、4年に一度の大舞台で失敗した事実を直視する必要があります。
なぜ、走れない状況まで追い込んでしまったのか?なぜ、レース中にあれだけのダメージを受けることを予測できなかったのか?
自己満足すればよい我々市民ランナーと違って、トップアスリートには勝利が求められます。国をあげて過熱するオリンピックでは、なおさら有形無形の重圧があったことでしょう。その中で勝ち抜くためには、人と同じトレーニングをしていては勝てない、と考えるのは自然な流れです。
そのため選手は、限界を超えるようなトレーニングを積んできたであろうことも、想像に難くありません。怪我や体調を崩してしまうか、それとも無事にやり遂げ、素晴らしいパフォーマンスを発揮するのか、綱渡りのトレーニングであったことでしょう。
それが原因なのは明白ですが、そのこと自体、マラソンという競技特性上、またオリンピックという舞台を考えれば、仕方のないことだと思います。
しかし、ここで辛口の論評が許されるのなら、本人が直接会見で説明しない状況にこそ、問題の本質が隠されているのではないでしょうか?限界ギリギリのトレーニングが、「コーチ、監督の指示に従って忠実にこなした結果」という報道の通りならば、なおさらその思いを強くします。
日本の競技選手の育成法は、特に女子の場合、「熱心な」指導者が選手を「管理し、導く」関係が主流です。そして、このやり方は、ジュニアを含む競技現場だけでなく、マスコミを通し、ランニングをやらない第3者にも、「最も優れたコーチング」手法であると盲目的に支持されています。
経験と先見性に優れた「指導者」が、長期的視野に立脚した戦略を立て、客観的に指導していくことの重要性は、僕も理解します。しかし、走るのは「選手」です。選手自身のランニング中の主観的感覚、自主的な気づき、沸き起こるモチベーション、などが重要であることは、自明です。

F.ショーター氏(ミュンヘン五輪・金メダリスト)は、選手自身の「セルフ・コーチング」の重要性を講演や自身の著書などで、繰り返し述べています。その真意と照らせば、選手の主観的感覚、主体性を重視するのが大前提です。
そして、その主観と指導者の客観的見解をすり合わせていくことが、より有効なトレーニング・マネジメントにつながり、ひいては素晴らしいパフォーマンスにつながるのではないでしょうか。
「国の代表として出場するからには、勝たねば」という思いは、強い責任感の表れでしょう。一方で、本来のオリンピック精神そのものである、「元気にスタートラインに立つ」ことも、代表者の責任です。
「言うは易し、行うは難し」なのも事実です。たとえ「セルフ・コーチング」ができていても、マラソンに求められるトレーニングには怪我の危険性はついて回ります。しかし、もし「セルフ・コーチング」の意識が少しでも欠けていたとするならば、今回の結果から学ぶべきことは多いように思います。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)
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